ドキドキしながら歩いた初めてのサンティアゴ巡礼、「フランス人の道」から2年が経ちました。このホームページの最初にも、「何も経験がないからこその新鮮な驚きと惑い、感動をお伝えできると思います」と序文に書きました。
まさか行かれるとは思っていなかった3回目の巡礼。憧れの「北の道」820kmを歩きました。一度ならずとも三度も歩けたのは本当に幸せな事だと思います。とはいえ、その都度新しい経験、戸惑い、気づき、喜びそして悲しみを覚えます。決して慣れることはなく、毎回が学びの歩き旅です。
今回の「北の道」でもスペイン文化の知らなかった側面を学べたような気がします。そもそも巡礼路として「北の道」ができたのは、内陸の巡礼路に山賊・盗賊が頻発して危険になったため、北へルートを変えたことが発端と聞いています。
「北の道」の宿場はそもそもが港町です。カンタブリア海に面したこれらの港町は古くから他のヨーロッパ地域との交易で栄えていた場所です。海に直接面しているというよりは、多くの港は天然要塞のような深い入り江の奥にあります。
南に地中海沿いの港町があるように、北にもカンタブリア海沿いに港町が点々とあるのです。そしてそのような港町には今でも当時の商人の「大邸宅」「館」が残っています。日本でいうなら北前船で富を築いた商人や船主が建てた「○○御殿」を連想させます。スペインではそれらの商人や船主は教会に寄進して、豪華絢爛な教会建築や祭壇を作り上げました。教会の中には寄進者のためのプライベートのチャペルがあるところもあります。かつての面影が残る街がそのまま残っています。
自然に目を向ければ、断崖からみるカンタブリア海の絶景と沿岸に広がる草原で草を食む牛や羊。言葉にはできない光景です。
バスク州、カンタブリア州、アストゥリアス州そしてガリシア州と言葉も食文化も違う4つの州を歩けたことは新しい発見でもありました。
そして、サンティアゴ巡礼といえば欠かせないのは人々との出会いです。
祝福された再会
北の道を歩き始める前に、2022年の巡礼で知り合ったスペイン人、LuisとJosé Javierが彼らの地元に招待してくれました。Navarra州にあるSan Adriánという町です。それぞれ奥様を伴って4日間彼らの町を案内してくれました。ナバラ王国時代のオリテ城、フランシスコ・ザビエルの生誕の地であるザビエル城(現在は博物館)、レイレ修道院とサンタ・マリア・デ・エウナテ教会などですが、一番印象にのこっているのは彼らの地元San Adriánの食品加工工場跡にある博物館です。
La Fábrica Vieja – Museo de la Conservaと名付けられた街中の博物館では、どうしてこの土地に食品(主に野菜)の加工工場ができたのか、どのように発展していったのかを展示物を通して教えてくれます。
手作業が多かった当時の貴重な労働力は女性達でした。その活躍ぶりが活き活きと分かる展示となっています。また、短いビデオの中で、1日2回始業時と終業時に鳴っていたサイレンが再生されていました。それを聞いた4人共が、「このサイレン、懐かしい!昔を思い出すわ」と言っていたのが印象的でした。
その晩は、博物館内で販売している(工場は別の所に移転しています)加工野菜、大きさ・太さの違うアスパラガスや瓶詰の赤ピーマンそしてカルドと呼ばれるアザミの一種を自宅で振舞ってくれました。瓶詰の赤ピーマンにも、肉厚のものとクリスタルと呼ばれる薄い上品なお味のものがあります。「昔はクリスタルの皮を剥くのにガラスを使って一つ一つ丁寧に剥いたんだ。ここの加工野菜はクオリティーの高さが売りだったんだよ」など、蘊蓄を聞きながら楽しいかけがえのない一時を送りました。心のこもったご馳走でした。
多国籍交流
道中はスペイン人、カナダ人、オランダ人、ドイツ人、アメリカ人そして韓国系アメリカ人、クロアチア人など、国籍を挙げたらきりがない様々な国の人々と知り合い、語らい、食し、飲み、楽しい一時を送りました。クロアチアの青年から北京オリンピック柔道男子金メダリストの石井慧さんの消息を聞きました。クロアチア国籍を取得し、元気に活躍しているし、クロアチアでは人気者と聞きました。思いがけない話題で盛り上がりました。
そのうちの何人かとは引き続き連絡を取り合って近況報告をしています。またどこかで出会うチャンスがあれば嬉しく思います。
このような出会いがあるからサンティアゴ巡礼はまた行きたくなるのでしょう。
おまけのサプライズは巡礼事務所でのボランティア
諸般の事情により予定より6日も早くSantiago de Compostelaに着いてしまったので、巡礼事務所でボランティアをさせてもらいました。裏方をするのかと思いきや、行った瞬間からカウンターの内側に座らされて到着する巡礼者にCompostelanaと言われる賞状を発行して、「おめでとう!」と祝福する側にまわりました。役目は賞状を発行することだけでなく、更に大切なミッションがあります。それは「巡礼者と会話をする」ことです。
一人一人と話してみると、様々な目的の人が様々な思いをもって歩いていることが良く分かりました。そしてSantiago de Compostelaの巡礼事務所が到着する巡礼者一人一人の思いを大切に受け止めていることもとても良く分かりました。
「おめでとう。Santigao de Compostelaへようこそ」と話しかけると涙ぐむ人。
「実は昨年肺の移植手術をして、自分がどこまで回復したのか、どこまで歩けるのかを試したくて巡礼したの。辿り着けたのも神様のご加護があってのことだわ」と話してくれる若い女性は夜に22錠、昼に12錠の薬を飲んで歩き通しました。
「私たち、巡礼路で出会って、以来5年間、毎年1週間一緒に歩いているの。不思議な関係でしょ?」と明るく笑う若い男女もいます。
もちろん、良い話だけではなく、一か八かで不完全な巡礼証明書を投げてよこす人もいます。「これでは賞状は発行できませんね…」というと「あっそ!」と踵を返して帰っていきました。隣にいたボランティアの人から「気にする事ないよ。本人が一番良く分かってるから」と慰められました。どんな気持ちで来たのかな?と思うと少し切なくなりました。
ともあれ、5日間だけ一緒に働かせてもらった事務所のスタッフとボランティアの人達に見送られて私は楽しいサンティアゴ巡礼を終えることができました。
改めて三度巡礼ができた幸せをかみしめるとともに、旅をサポートしてくださった皆様、励ましてくれた友人・知人そしてペインで温かく迎えてくれたLuisとPili夫妻、José JavierとJuli夫妻には心から感謝しています。また快く送り出してくれ、日々送る写真に”イイネ!”で応援してくれた家族にも感謝しています。¡Gracias!
また巡礼路に行かれるかな? ¡Hasta la vista!