Part 4  マウント・アスパイアリング国立公園

歩き旅

最後のトレッキングコースはマウント・アスパイアリング国立公園とフィヨルドランド国立公園を結ぶ32kmのトレイルの一部です。

本来は3日間かけて歩くコースですが、私たちが歩いたのはマウント・アスパイアリング国立公園側から入って日帰りできるルートバーン・シェルターからルートバーン・フラッツ・ハットまでの片道7.5kmです。

元国立公園レンジャーのガイド、キタイさんに案内してもらいました。

この地域も雨が多く年間雨量は7,000㎜ほどです。天気予報は雨になっていたので雨天装備も万全に出発しました。

起点となるルートバーン・シェルターから見える山は岩肌がむき出しになっていて、上部には雪が残っています。斜面には滝が見えますが、この滝も消えてしまう名も無き滝だそうです。

植生はフィヨルドランド国立公園のミルフォード・トラックと似ています。吊り橋を渡り森の中を歩き、途中からはルートバーン川に沿って歩きます。

トラックに入るとミズゴケの群生がありました。触ると水分を含んでふっくらとした良い手触りです。

花も多く咲いていますが、固有種の花は殆どが白。厳しい環境の中で育つ花は白が多いのだそうです。時折見られる鮮やかな色の花は外来種であり、駆除の対象になっています。ラージ・マウンテン・デイジーは見かけませんでしたが、小ぶりな白いエバー・ラスティング・デイジーはひっそりと咲いていました。

外来種は植物に限ったことではありません。動物もオコジョ、ネズミ、ポッサムが駆除の対象になっており、一定の間隔ごとにトラップボックスが設置されています。特にポッサムによって固有種の鳥が被害を受けているという事でした。

木はブナそしてここでもシダが多く見られます。何気なく茂っている葉っぱにもトリックがあります。裏返すと葉脈の主脈にそってフックのような小さな棘が並んでいます。身を守るための防御棘です。他にも面白い植物がたくさんあり、キタイさんの楽しくて詳しい説明に驚きながら進んでいきます。

スミレ
葉の裏側に棘が潜んでいます

トレイル自体は整備されており、危険個所はありません。

ブライダル・ベール・ブリッジはその先にあるブライダル・ベール滝の下流にある橋です。この場所はキャニオニングの名所と言われています。この日は誰もいませんでしたが、ホテルのモニターに映っていた岩をスライドしながら下っていく様子はこの場所だったと思います。渡っている橋の下も切れ落ちており、その先も早い流れになっています。キャニオニングはしたことがありませんが、暑い日に川を下るのは気持がちよさそうです。

少し標高が上がったところからは蛇行するルートバーン川が見えます。この景色はジュラシックワールドの景色です。

キタイさんはバードウォッチングが好きでニュージーランドにいらしたそうです。そして、ロビンを見つけては足を止めて靴先で少し地面をこすっています。新しい断面の土にいる虫などを食べにロビンが寄ってくるそうです。この日もロビンが足元まで下りてきましたが、あまりお腹はすいていなかったようです。

森を歩き、川を渡ると草原に出ます。周囲は山に囲まれ、小川が流れていて、その場所がU字谷の底の部分であることが判ります。自然が織りなすシルエットの美しさに見とれます。

ルートバーン・フラッツ・ハットの手前、トレールの脇に不自然に積まれた石がありました。ケルンとも違う雑然とした積み方です。実はここにはカウンターが仕込まれていてトレッカーの数を数えているそうです。集計された数はトレールや施設の整備に役立てられています。

石の下にはカウンター

3時間ほどで目的地のルートバーン・フラッツ・ハットに到着です。ここには、日本でいう東屋(水道付き)と宿泊施設(ハット)、水洗トイレ、そしてレンジャーの宿泊施設があります。

ハットの壁にはこの日の天候、トレールの状況、風、注意点などがホワイトボードに手書きで記されています。

ハットの前には平原があり、小川も流れています。平原の周囲は氷河で削られた山とそれによってできた谷です。

温かいお茶を作っていただき、この景色を前に食べるサンドイッチの味は格別です。ランチを食べていると、サーっと雲が流れて霧雨が降り、去っていきました。一瞬のことです。一日のうちに四季がある、と言われるこのエリアを実体験です。

ハットに掲示されている天気予報と注意事項。
レンジャーさんが毎日更新します。

ランとの出会い

ハットでこの地域の植物ガイドブックを見せてもらいました。その中でとても印象的だったのはラン科の植物が多かったことです。キタイさんに訊ねると、もう季節は終わってしまったが、ランは多いという事でした。確かにこれだけ雨が多ければランもあるかもしれません。

私は野生のランが好きです。自然の中で生きる小ぶりで可憐なランはとても魅力的です。

そんな話をしながら帰路につきましたが、前を歩いていたキタイさんが「あっ、あった!」と足を止めました。指し示された先には緑色のランが群生しています。ほんの数十センチ四方にランが咲いています。緑の草とシダの中に紛れるように咲いています。

「ランが好き、と言われたので、ランと思って歩いていたら見つけました!」とキタイさんも嬉しそうです。小さな緑のふっくらした花ですが、凛と美しく咲いていました。

そして、トレールも終盤になった頃、再びキタイさんの「あっ!」が聞こえました。「これはグリーン・バード・オーキッドです。このトラックで見るのは初めてです」と教えてくれたその花は、本当に緑色の羽を広げた鶴のような形をしていました。大きさは羽の端から端まで10㎝にも満たない小さなランです。そしてそこに本当に一つだけポツンとありました。

グリーン・バード・オーキッド

雨予報にも関わらず、昼にサーっと霧雨が通った以外は雨にも降られず、トレッキング日和でした。

足元の苔、花、ブナの木、シダ、周囲から聞こえる鳥の声、傍らを流れる川、そして視線を上げれば雄大な景色と素晴らしいトレールを歩くことができました。

ルートバーン・トラックも、もしも次回があるのならば小屋泊をしながら歩いてみたいトレールでした。

ルート・バーン・トラック 歩いたのはほんの一部分

今回の動画をInstagramに掲載しています。そちらもご覧いただければ幸いです。Routeburn Track