曽爾村から室生寺
1日目は曽爾高原から曽爾村まで下りました。そして2日目の予定は曽爾村から室生寺までの約15kmです。
行程
曽爾村 → 長走の滝 → 済浄坊の滝 → クマタワ峠 → 竜穴神社 → 室生寺
8時に宿を出発し、曽爾健民運動場やオートキャンプ場を過ぎると東海自然歩道の標識が現れます。そしてガードレールが付いた舗装路の横に”長走の滝”が見られます。そこから道路沿いに少し行ったところに東海自然歩道の標識があり、済浄坊の滝の0.5kmの表示が現れます。ここからは舗装道路から外れて山に入っていきます。ちょっとドキドキしました。
小さな川を左手に見ながら歩きます。整った道が付いています。済浄坊の滝以前に、済浄坊渓谷というエリアに入ります。石畳の道が付いていますが、ある地点で突然道が斜面沿いに上がっていっていました。土の表面も柔らかく、不自然な登りです。少し迷いましたが、周囲を見渡すと左手に流れていた小さな川が渡れそうで、しかもしばらくは川沿いに歩けそうです。登らずに渡渉し、反対側から見てみました。すると、石畳の道が土砂崩れで埋もれていたのです。その区間はおよそ10mくらいでしょうか。しばらく行くと滝が見えてきました。その後土砂崩れもないので、対岸に道が続いていることを確認して、再度渡渉して元の道に戻りました。
山の中を歩くということはこういう事だ、と実感した瞬間です。
済浄坊渓谷には滝がいくつかあります。最初に見た滝の横を登っていくと、上段に滝があり、更に上にも滝があり、落ち口の直ぐ傍らを通ります。川と滝の真横を通る道が続いているのです。自然歩道を通せんぼするように木の幹が直角に曲がって更に上に伸びています。避けるのは通してもらっている人間の方です。
その後は笹に覆われた道など、山の中を実感する自然道や時折開けた場所など、バラエティーに富んだ道をひたすら進みます。所々に東海自然道の標識が現れるので安心して進めました。
上を見れば紅葉が美しく、足元には枯れ葉が積もり、秋らしい風景の中を進みます。
山へ入った所からずっとクマタワ峠の表示がありました。どこだろうと思っていたのですが、後で確認したところ、国見山・住塚山との分岐の所がクマタワ峠と分かりました。”歩き”の初心者にとって、峠はとても分かりにくく、今まで表示が出ていたのに、その現場に「クマタワ峠」と無いのは少し混乱します。
そして、このクマタワ峠を境に自然と向き合う旅の始まりでした。
見るからにほとんど人が通った形跡がなく、東海自然歩道と思われるルート上には枯れ葉はもちろん、大小の枝、倒木、石は一面苔に覆われています。人の気配は全くありません。ここまでもそうでしたが、「山に独りぼっち」をひしひしと実感します。
静寂な山の中、消えかけたルートをたどりながら、集中して進んでいきます。自然と向き合うといえば少し大げさですが、風の音、木々の音、周りの気配に耳を澄ませて歩くのは緊張の中にも楽しさがありました。
しばらく行くと、ルートから少し離れたところに、動物を捕獲するための大きな罠檻が仕掛けてありました。今から思えば、写真くらい撮っておけばよかったものの、何故か急いで離れました。後に地元の方に聞いたところ、イノシシ用の罠だったようです。
そんな山の中でも、東海自然歩道の標識が定期的に現れます。これは心強い道しるべです。
ピンチ到来!
順調に歩いていましたが、少し下った所に標識があり、私は「室生」の方向を目指して進みました。道には石畳がひかれていました。そのまま進むと笹薮がありましたがまだ道は続いています。一旦抜けた笹薮でしたがその後、再び笹薮が現れて何故か突然道が消えています。
「この笹薮を抜ければ、また道が出てくるに違いない。」そう思い、藪をかき分けて進みました。そして藪を抜けると、そこは山の急斜面でした。暫く立ち止まって周囲を見渡しました。気を付けて少しだけ斜面を進んでみました。しかし、観察すると、上にも下にも道らしきものはありません。これ以上進めば山の斜面が岩になり到底先にはいかれません。下には川が流れていて、そこまではかなりの距離があります。ここでバランスを崩して滑り落ちれば、怪我だけでは済まないかもしれません。急にドキドキしてきました。
少し自分が落ち着くのを待って、ゆっくり、確実に斜面を引き返すことにしました。斜面の木々や足場になりそうな岩を伝ってゆっくりと戻りました。そして笹薮をくぐって、元の石畳の道まで引き返しました。
更に、標識までわずかな距離だったので、もう一度戻り、方角を再度確認しました。「この少し先までは間違っていない」と確信できたので、落ち着くために持っていたナッツバーを半分食べて休息し、再び進みました。
石畳が途切れる手前まで来たとき、ふと小さなせせらぎの反対側にピンクのリボンが2か所結んであるのに気が付きました。「もしかして、このせせらぎを渡る?」水辺に近づいてみると、リボンの先に道が続いています。「ここ???」
最初に対岸に気づかなかったのには理由があります。今回のルートを歩くに当たっては色々な地図を参考にしました。前述した奈良県が出しているパンフレットにも地図はありますが1:120,000のざっくりしたものです。その他、国土地理院の地図、ヤマップの地図、環境省の東海自然歩道マップ、インターネットで見つけたrenger-kのマップ、そしてトレイルブレイズハイキング研究所のGPSトレッキングルートデータなどを参考にしました。
上記のようなデータを参考にして自分で国土地理院の紙の地図にルートをプロットしていったのですが、それが正確ではなかったことが一因です。また、作成の際に、「ここから先は川を左手に見て歩けば室生まで行かれる」という先入観があったため、小さなせせらぎ=川と思い、渡ることを考えずにポイントを見落としたともいえます。
トレイルブレイズハイキング研究所のGPSトレッキングルートデータはGPXをGoogle earthに落としてみましたが、初めての試みで電波の無い山の中では使えませんでした。
準備不足、経験不足でした。
さて、ピンクのリボンを頼りに渡ってみると、道はちゃんと続いています。しかし、道はすぐに左曲がりにUカーブがあり、地図上では見た記憶の無い経路です。それでも道なりに歩いてみると、しばらくして”東海自然歩道”の標識がありました。あの時点で渡ったのは正解だったのです。ホッとすると同時にちょっと情けない気持ちになりました。
ここから先もしばらくは山の道を歩きました。最初は荒れていた道も徐々に開けた道へとつながっていきます。
この時点でも、電波は入りません。標識があるのでこのまま行けば室生まで行かれるのは確かですが、自分がどこで間違ったのか、どこまで来ているのかを紙の地図で確かめるべく林道との合流点や川の流れや蛇行を必死で見たのですが、自分の位置がとうとう分かりませんでした。これはとてもショックな出来事でした。
竜穴神社まで3.3kmになりました。ここで残りのナッツバーを食べて一休みです。
迷った渡渉から30分ほどで、欄干は苔に覆われていますが、地面には自動車の轍の付いた橋までやってきました。何となく人里が近づいてきた気配です。
横を流れる川には苔むした石がゴロゴロとあり、ちょっと屋久島を思い出しました。とても美しい光景でした。ほどなく林道が開け、人家が見え、里に出てきたことが分かりました。
舗装道路に出てから30分ほどで竜穴神社に着きました。雨神タカオカミノカミを祭り、雨乞いの神様として知られているそうです。木立の中に拝殿がある清々しい神社です。また、連理の杉(夫婦杉とも呼ばれているそうです)や「而二不二(ににふに)の神木」と呼ばれる大杉が印象的です。
更に歩くこと15分で室生寺に到着です。赤い太鼓橋が印象的な入口です。橋の左右には紅葉したもみじが彩を添えています。境内に入ると仁王門があり、弥勒堂、金堂、本堂、五重塔そして370段の階段を上って奥の院へと続きます。7世紀に建てられた室生寺は女人高野とも呼ばれ、奥深い山の中で信仰を集めてきました。その歴史の重みをひしひしと感じることができます。
室生寺入口の受付で拝観料をお支払いした際に、「奥の院までいかれますか?」と聞かれたので、「行きたいと思います」と答えると、「その大きな荷物はよろしければ受付で預かりますよ。」と言ってくださいました。ご厚意に甘えて大きなバックパックは預け、ウエストポーチ一つでゆっくりと室生寺を散策することができました。後で知った370段もある階段も身軽に上ることができ、助かりました。
こうして2日目も無事に終えましたが、3日目以降は計画を変えることとなりました。詳細は次の記事に書きたいと思います。