塔ノ岳

低山ハイク

いつかはきっと塔ノ岳!と思い続けて何年か経ってしまいました。

塔ノ岳は歩き旅の師匠であるミヤジマさんのホームグラウンドであり、月に2回はトレーニングで登っていらっしゃると聞いていました。”塔ノ岳に登ってみたい”という私に、「一緒に登ろうよ」と誘ってくださいました。

そして、サンティアゴ巡礼路の先輩方であるミヤジマさん、更にはエンドウさんのお二人に一緒に行っていただくことになりました。なんと心強い山登りでしょう!

5月、ゴールデンウィークの最中に登ることになりました。 秦野駅午前8時24分のバスでヤビツ峠に向かう事にして待ち合せました。

私の秦野駅到着時刻は7時35分です。行列は覚悟していましたが、50分前にバス停に着たのに、驚くほどの人の列です。お二人は既に列に並んでいました。これほどまでに混むとは・・・。

予定よりも1本前の7時44分発のバスが満員で出発し、残りの人達のために臨時便が出ることになりました。連休中ということもあり、この日はかなりの臨時便がでたようです。幸い、この臨時便に乗れたので、予定よりも30分早く出発することができました。

この日の行程は以下の通りです。

行程

ヤビツ峠 → 二ノ塔 → 三ノ塔 → 烏尾山 → 新大日山 → 塔ノ岳山頂 → (大倉尾根経由)立花山荘 → 堀山の家 → 見晴茶屋 → 大倉高原の家 → 大倉バス停

14㎞、約9時間です。

天候

”てんきとくらす”では当日の塔ノ岳の予報は曇り時々晴ですが、ランクはC。風速8mから12mの強風で、午後からは雷雨ということでした。ただ、経験豊かなお二人が大丈夫と判断されたので登ることになりました。

ヤビツ峠バス停では大勢の人が準備をしています。バスの管理をしているスタッフの方によると、ここから塔ノ岳だけではなく、大山に登る人達もいるということでした。

最初の1.6㎞、およそ20分は道路沿いを歩きます。塔ノ岳まで6.2㎞の標識がでてくると、そこからが山道の始まりです。

遭難や事故に備えてルートの所々には「表尾根《no. xx》」の看板があり、番号で場所が確認できるようになっています。黄色と赤の目立つ看板です。

階段状の登りが続きます。この辺りは森の中を行きます。

9時を過ぎて気温が上がってきました。日差しも強く、すぐに汗をかき始めました。案じていた風もいまのところは殆どありません。

登山道はとても整備されていて、早くも休憩のベンチがありますが、ずっと登りです。

10時過ぎには二ノ塔に到着しました。多くの人が休憩中でした。周囲には新緑の木々がありましたが、富士山が見えました。最初は少しかかっていた雲は徐々に取れ始めました。ここで今日初めての富士山のショットです。思いのほか気温が上がってきたので、休憩をしました。

ここからは尾根歩きです。依然として雲はありますが、左手に富士山を見ながらの尾根歩きは、普段奥多摩や青梅の山々を歩いている時には見られない景色です。

山の緑のグラデーションはこの時期ならではの配色ですし、所々にわずかに残る桜の淡いピンク。そして、時折見られる躑躅の濃いピンク。気持ちがウキウキしてきます。

ウキウキの尾根歩きですが、途中で烏尾山の銀色の三角小屋がはるか遠くに見えました。そこへは、一旦下って登り返すルートが見えています。「遠いなぁ」と思っている私に追い打ちをかけるように、更に遥か、遥か先の山のてっぺんに、ほんのわずかに見える人工物。「あれが塔ノ岳だよ」の一言に絶句してしまいました。果てしなく遠く見える塔ノ岳山頂。本当に到達できるのか、すこし心配になってきました。

下って、登り返して三ノ塔に到着です。ここで”塔ノ岳まで4.0km”の標識があり、まだまだ先は遠いと感じました。

三ノ塔からは烏尾山へ。この中間地点で初めて鎖場が現れます。鎖場で下り、登り返すと烏尾山。尾根歩きで見えた銀色の三角屋根は烏尾山荘でした。”かき氷あります”の張り紙が出ていました。この山荘が開いているのはとても珍しい事だそうです。後でずっと先の小屋のご主人から聞いたのですが、烏尾山荘の店主さんは高齢のため、近い将来小屋を閉める予定だそうで、今は月1回程度、小屋を開けて空気を入れ替えるために登ってくるだけ、という事でした。

烏尾山でも休憩です。この日はグングンと気温が上がって、水分補給がとても大切になってきました。

烏尾山からは行者岳を通り、差の先には長く深い鎖場の下りが待っていました。この山行一番の集中ポイントです。鎖場では先行する人が下りるのを待っていましたが、鎖場横の岩場の斜面に濃いピンクの花が見えます。小さくてよく見えませんが、エンドウさんが岩場に登って接写してくれた写真を見ると、どうやらイワカガミのようです。初めて見ました。ちょっと感動です。

さて、この鎖場ですが、数人ですが順番待ちの人がいました。先行していた3人組の人達が、前後待つ人がいて焦ったのかもしれませんが、二人が同じ鎖に取りつこうとしていたところをミヤジマさんが見つけて「ワンスパンに一人だけだよ。二人はダメだから次の人は待って!」と声をかけました。「前の人は下りたら次の人に声をかけてあげて!」とも。

皆が安全に使う、山での不要な事故を防ぐ。とても大切なことだと思いました。咄嗟にちゃんと声をかけたあげたミヤジマさんは流石と感じました。

最初にミヤジマさんにお手本でおりてもらいました。私は待機している間にストックを畳んでリュックにしまい、両手を使えるように準備をして、お待ちいただいている方には申し訳ありませんが、ゆっくりと後ろ向きで慎重に下りました。途中、へっぴり腰を上から写真で撮られているのに気付き、ちょっと苦笑い。

下りたのを確認して、しんがりはエンドウさんです。山男エンドウさんは、後ろ向きになることもなく、ヒョイヒョイと下りてきました。お返しにスマホカメラを向けた私にピースサインを出す余裕もあります。

下れば登るの繰り返しです。新大日山、1,340mに到着です。ここでも一旦休憩しましたが、本当の急登はここからでした。気温はドンドン上がってきたようで、飲料水が底をつき始めました。

新大日山からは少し平坦な尾根を歩きます。まだ山桜が残る見晴の良い気持ちの良い尾根を通ると、岩場の登りが始まります。そこを少し登った所に木ノ又小屋があります。ここでは美味しいコーヒーが飲めるという事で再度休むことにしました。幸い、木ノ又小屋ではペットボトル飲料が販売されていたので、アクエリアスとお水を購入しました。

私は水分をあまり摂らない体質で、山でもあまり水を飲まない、というよりは飲めないのです。しかし、この日は、まだ慣れていない体に一気に暑さ加わったようで、体の中から乾いていると感じました。そのため、飲み物をあまり一気飲みはしないのですが、アクエリアスを一気に飲み干しました。五臓六腑に染みわたるとはこのことです。体中に水分が満ちていく感覚でした。

ここから更に岩場を登っていきます。鎖がありますが、鎖を持つというよりはルートの目印の様です。

そして、ついに、茶色い屋根が見えてきました!頂上の尊仏山荘の屋根です。

写真やビデオで見たことはあった塔ノ岳の山頂は思いのほか広く、大勢の人がくつろいでいました。そして正面にはど~んと富士山です。途中から見た富士山には周囲に雲が多くありましたが、この時富士山周辺にほぼ雲もなく、周囲の山々を従えて威風堂々の素晴らしい山容を見せてくれました。感動の登頂です。時刻は既に15時を少し過ぎていました。出発から6時間半経っています。長旅でした。

頂上では周囲を取り巻く山々を堪能しました。少し下に見える大山や丹沢山、蛭が岳など、名前が分からない山々まで。塔ノ岳山頂からは360度、全てが見渡せました。達成感と感動です。

長い下り

さて、達成感と感動の後は、長い長い下りが待っていました。計画では大倉尾根を下ります。山頂直下の標識には”大倉6.4㎞”とありました。

尾根沿いの穏やかな下りもあれば、延々と続く階段道、丸太を組んだ階段状の下り、根っこ道と、下り大苦手な私には苦戦の連続です。途中、松林やもみじ林に沿った気持ちの良い尾根道もあり、そこでは一息です。

下り始めて直ぐに、ヘリコプターがずっと周囲を飛んでいることに気づきました。”訓練?”かと思いましたが、花立山荘から救助隊の人が2名、無線で話しながらでてきました。「対象とは未だ接触できていません」の会話から事故か遭難か、救助の要請があったようです。山荘のご主人も心配そうに表に出てきていました。

花立山荘から暫く行ったところで、救助隊の人と女性が歩いているのに出会いました。どうやら救助要請をしたご本人の様です。またしても無線で、「対象者と接触できました」の会話が聞こえました。暫く同じ道を下りましたが、どうやらその人達は天神尾根というところから下りるようです。何があったのかは分からずじまいでしたが、怪我もしていないようだったので、良かったです。

大倉尾根は通称”バカ尾根”と呼ばれていると前から聞いていました。前述したように、バラエティーに富んだ下りが延々と6㎞以上続きます。下り苦手としては試練ですが、ストックをフルに使って、お二人にかなり遅れて下りました。

途中、声をかけてくださる登山者もいらしてやっとの思いで降りました。ラストスパートでミヤジマさんには追い付き、二人が大倉バス停に着いたのは、バスの出発予定時刻の3分前でした。飛び乗って渋沢駅まで!と思ったのですが、生憎バスは満杯状態で30分待って次のバスで座って戻る方を選びました。

登り・下りともに大変な塔ノ岳でしたが、景色の美しさ、バラエティーに富んだ山行と本当に楽しい一日になりました。

大いに反省

天気予報が外れて終日天候は良く、また強風は全くなく、時折穏やかな風が吹く程度でした。しかし、気温が一気に上がったため(当日の塔ノ岳の最高気温は分かりませんが、25度以上はあったと思います)、まだ慣れていない体から大量の汗をかき、500mlのペットボトルはあっという間に底をつき、温かいお茶500mlも途中で無くなってしまいました。木ノ又小屋でペットボトルが販売されていたため、そこでアクエリアス500mlを飲み干し、更にお水500mlを購入。下山まで何とか保ちました。小屋でのペットボトル1本500円ですが、これを担ぎ上げてくれた人の労力を思うと本当にありがたく思いました。 途中で同行のお二人からウイダーinゼリーとお塩のタブレットもいただいたので、脱水もせず、足もつらずに下山できましたが、この準備不足は大いに反省しなけらばなりません。重さを嫌って、ついついギリギリの量しか持たないのですが、今回ほど水分が足りない辛さを感じたことはありませんでした。

自分の事として・・・

今回、図らずも下りで救助隊の活動に遭遇しました。実は、YAMAPで行動計画を作った時に、”お知らせ”として、「丹沢方面での遭難や滑落などの事故が増えています。自分に合った計画を立てましょう。」というメッセージが入りました。見た時には「そうなんだ...」くらいにしか思いませんでしたし、今回はベテランのお二人が一緒だったのであまり気にも留めませんでした。どんなに気を付けても事故は起こるし、誰しも遭難したくてする訳ではありませんが、もしも自分の不注意で事故を起こせばこれだけの人達に迷惑をかけることになるのだ、というのを目の当たりにしました。救助隊の人達の機敏な行動や漂う緊迫感にはハッとする思いでした。

準備を怠らず、油断せずにこれからも楽しい登山をしていきたい、と改めて思いました。

今回の動画をInstagramに掲載しています。そちらもご覧いただければ幸いです。 塔ノ岳