2. 初めての湯治

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おりしも東京は例年にない猛暑に見舞われていました。一刻も早く湿疹から逃れたい気持ちが強く、豊富町のホームページを読んだものの、湯治というものや脱ステロイド、脱保湿剤について殆ど知識がないまま北海道へ行きました。そして脱ステロイドを目指しながらも湿疹の痒さに屈して前日までステロイド剤を使っていました。8月下旬でした。

以下には滲出液で覆われた額などの実際の写真を掲載しています。ご覧になりたくない方のために事前にお知らせいたします。

Day 1(脱ステロイドの日数)

到着早々に豊富温泉コンシェルジュデスクに行き、これまでの経緯を話して温泉の使い方(浸かり方)や様々な注意点を教えてもらいました。また食堂の場所や自炊するにあたり生活に必要なお買い物の場所など、丁寧なアドバイスがありました。こうして12日間の予定で初めての湯治が始まりました。

温泉

豊富温泉はホームページにあった通り、お風呂が一般用と湯治用に分かれています。どちらに入るかは自由ですが、その違いは温度にあります。湯治用は長時間入れるように温度が低めに設定されており、湯治用のお風呂にも更に高め、低めの二つの浴槽があります。

お湯は宣伝の通り、石油のにおいがほのかにして、お湯の表面には油の膜がうっすらと光ってみえます。

浴場ではただぼんやり入浴する人、お互いにそれぞれの経験談などを語り合う人と様々です。皮膚も湿疹のある人、色素が定着して少し黒くなっている人、既に治ってきれいな人も「年に1度のアフターフォローのため」と様々ですが、事前にコンシェルジュデスクで聞いていた様に、周りを気にする事なく入浴できます。

宿泊施設

宿泊先はネットで検索し、ウカスイモシリという個室ではあるものの、キッチン、ランドリーやシャワールームは共同で、ふれあいセンターの温泉利用が基本になっている宿を選びました。

宿は新しく、きれいでしたが、大きな見落としがありました。それは部屋にエアコンが設置されていなかったということです。8月末、豊富町は連日30度を超えるかつてないほどの気温の高さでした。宿泊施設の窓は下部を外に押し出すようにして、下の部分が20㎝ほど開きますが、風を通すには不十分です。扇風機を24時間マックスで回しても、部屋の温度が30度を下りません。北海道の建物は畜熱に主眼が置かれているため涼しさを追求するようにはできていないようです。

扇風機も暑さには及ばず・・・

暑さで殆ど眠れません。また、2日目の晩からは自宅にいた際に痒くて掻き壊した耳から滲出液が止まりません。ティッシュペーパーは30分ほどでびしょびしょに濡れてしまいます。因みに、この時は滲出液という言葉さえ知りませんでした。横を向いて寝れば滲出液が耳に入り、耳塞がって目が覚めます。仰向けに固定して寝れば背中が汗でびっしょり濡れてあっという間に汗疹が一面にできました。自宅から持参した小さな保冷剤に加え、健康相談室からもいくつか借りて日中冷凍庫で凍らせ、夜には背中に敷き詰めて寝ても夜中には溶けて目が覚めてしまいます。壁にもたれて座ったまま寝たり、フローリングにうつ伏せになったりしながら4日我慢しました。

この間に顔にも今までにないほど湿疹が広がり、また耳から流れ落ちる滲出液で耳の後ろから首筋、胸までただれてしまいました。

脚にも汗疹が出ましたが、それはある時突然痒みを感じたと思った瞬間に皮膚がブチブチと盛り上がっていくのを感じてそれが汗疹になりました。まるで音まで聞こえてきそうです。さすがにこれ以上の我慢は危険に思えてきました。

Day 5

コンシェルジュデスクに相談しました。事前に自分で写した背中の写真も見てもらった結果、先ずは宿を移ることにしました。ウカスイモシリは最初から12日間の予約が取れず、途中でニュー温泉閣ホテルに移る予定でした。

ニュー温泉閣ホテルに問い合わせると、運よくこの日から宿泊できることが分かりました。この二つの施設は徒歩2分の距離です。因みに、ニュー温泉閣ホテルの部屋にエアコンがあるかどうかを再三確認しました。チェックインの時間を待って早速引っ越しをしました。

室温を25度に設定して部屋全体を冷やしました。じわじわと体が楽になっていきます。これで眠れると思うだけで少し気が楽になりました。

「高温は脳を疲労させる」という健康相談室の相談員の方の言葉を実感しました。

ニュー温泉閣ホテルの長期滞在者用施設はそれぞれの部屋にキッチン、トイレ、洗面台があります。また、日々のルームサービスが無い代わりに掃除機も各部屋に完備。リネンの交換が必要な時にはバッグに入れて部屋の外に出しておけば新しい物を用意してくれます。

また館内に独自の温泉もあり、午前中の清掃時間を除いては夜中でも入れるようになっています。

新しくてきれいな部屋です。なによりもエアコン付き!
キッチンもコンパクトながら充実しています

快適な環境にはなりましたが、悪くなった湿疹は改善されず、汗疹なのか、脱ステロイドのリバウンドなのか、温泉が合わずに感染症を起こしているのか不安になります。

この時期には額にも傷ができてそこからも滲出液が出始めていましたし、今まで無傷だったお腹にも湿疹が出始めました。涼しい室内にいられるので身体は少し楽になりましたが、相変わらず夜は眠れません。

Day 7

毎日のように通っている健康相談室に駆け込みました。健康相談員の方に診ていただき、感染症には見えないけれど念の為にと東京にいる皮膚科医(豊富温泉をサポートして下さっている医師)に連絡をしてくださいました。

オンラインで診ていただき、感染症には見えないし、ステロイドを止めてから日が浅く、全てが抜けるまでには時間がかかる。また塗り薬や保湿剤は使ってはいけないが飲み薬(抗アレルギー剤)は飲み続けた方が良い。可能であれば滞在期間を延ばした方が良い。というアドバイスを頂きました。

早速、宿泊先や航空券などを手配して、滞在を1週間延ばすことにしました。

Day 8

滞在に備えて買い出しなどに出かけましたが、夜になって寒気がし、食欲もなく殆ど食べられませんでした。

前夜から体がだるく食欲もなく、梨を1個食べただけでした。頼みのコンシェルジュデスクがお休みの為1日部屋で過ごしました。額からの滲出液が多くなり気付くとあごを伝って雫が落ちるほどです。

横になると眠れないので、椅子に座ったままほぼ1日ウトウトしていました。

流れ落ちるほどの滲出液が出てきます

Day 10

体調が回復しないので、健康相談室へ行きました。熱を測ると38.2度ありました。その為再度東京の皮膚科医に相談していただき、豊富町国民保険診療所で抗生物質をもらうことになりました。

この時には額の裂けたような傷口から流れ出た浸出液で耳や首が覆われました。顔半分が松脂で覆われた様になってしまいました。全身は内側から噴き出したかのように湿疹ができていました。脱ステロイドのリバウンドの最初のピークだったように思います。

午後に診療所に行きましたが、先ず正面玄関の体温チェックで入れませんでした。そのため、救急窓口に行き事情を説明して、本来ならば事前予約が必要な抗原検査をやってもらい、陰性を確認後にやっと診察室まで辿り着きました。

豊富温泉に宿泊中で、脱ステロイドの途中であることを含めて経緯を説明したところ、温泉の健康相談室に電話をして連携してくださいました。そして抗生物質や解熱剤を処方してもらい、4日後にもう一度診察をしましょう、と言って頂きました。

豊富町で1件だけある薬局で薬と体温計、そしてセイコーマートでレトルトのお粥を購入して帰りました。幸い、熱は翌日には下がりました。

Day 12

滞在を急遽延長したため、同じ宿の予約が取れずまた移ることになりました。3件目の宿泊先はホテル豊富です。この日は引越にあたってレンタカーをしていたので、稚内市内まで買い物に行く事にしました。

痛恨、衣類のミスチョイス

湯治にくるにあたり、肌に良いと思いコットンの下着やTシャツ、襟付きのシャツなどを用意してきましたがいずれも使えませんでした。リブ編みのコットンのタンクトップは縦の僅かな織り目が肌を刺激し痛くて着られません。また、コットンは少しでも汗をかくとずっと乾かず体に接触しているところが沁みてチクチクと痛み耐えられません。涼しいようにと選んで持ってきたサッカー地の襟付きシャツはその凹凸がやはり肌を刺激して痛くて着られません。僅かに着られる下着と薄手の袖なしワンピース2着を毎日洗濯して交互に来ていました。室温は25度に設定し足先は冷たくなっても靴下を履いて我慢です。僅かでも汗を掻けばピリピリ、チクチクと痛みます。

稚内市内で衣類が購入できるお店は数えるほど(たぶん2件)。地元の方にも情報をもらいSマムラに行ってみました。既に夏物は少なく、選択の余地は余りありませんでしたが、凹凸の無いサラサラ系の下着など必要なものが入手できました。また、偶然見つけたコットンでできたニット帽を購入しましたが、これが後に大活躍することになり、後日色違いを買いに再びSマムラに行く事になります。

この頃になると、浸出液はほぼ止まり身体の湿疹は赤みが少し薄くなり乾いたようになってきました。また、顔や耳や首を覆っていた滲出液が乾き始め、鱗状にパリパリになり割れてきましたが、耳は付着物に覆われた貝殻の様に硬く固まり、厚みも3倍くらいになり、重く、自分の物でない何かが顔の横にくっ付いているような感じです。

滲出液で覆われていた額は乾燥してうろこ状になり剥がれ始めました。耳はまだビッシリと覆われたままです。

乾き始めた身体からは固まったかさぶたの茶色い破片、白っぽい粉が動く度にぽろぽろと落ちます。痒みが出て身体を掻こうものならものなら、周囲に白い粉の円ができます。自然に落ちるまで待たなければならないと分かってはいますが、ついつい手がかさぶたを触ってしまいます。触れば剥がしたくなります。熾烈な葛藤の始まりです。

Day 15

再び豊富町国民保険診療所に行きました。状態を確認していただいた後、東京で皮膚科に行くまでに必要な抗生物質を処方して頂きました。

体調も少し良くなり、この日は終日車を借りていたので、1時間ほどかけて宗谷岬まで行ってみることにしました。あいにくのお天気で樺太は見えませんでしたが潮風が気持ちよく、帰りには雲間から利尻山が見えました。

再び稚内市内に寄り、Sマムラで色違いのニット帽とDソーで落ち続ける皮膚の粉を取る粘着ローラー(コロコロ)などを購入しました。ホテル豊富は”ホテル”のため毎日お部屋を掃除してもらえますが、部屋に掃除機は無いので皮膚がぽろぽろ落ちるのがずっと気になっていました。気になれば直ぐに自分で粉の始末ができるようになり、気分的にも楽になりました。

Day 16

気温がぐっと下がり、曇り空。豊富温泉に来て初めてウォーキングをしてみました。ホテル周辺を1時間ほど歩いてみました。久しぶりに歩いて気分は良くなりましたが、やりすぎには要注意です。時間で切り上げてホテルにもどり、温泉に入って汗を流し、その後は部屋で過ごしました。久しぶりに体を動かしたことと、相変わらず夜に眠れないため気が付くと机に突っ伏して寝ていました。

顔のかさぶたは日に日に落ちていきますが、額に沿った頭の中にもできていたと思われるブツブツもかさぶたになり気になって仕方ありません。ポリポリと掻いては剥がしてしまいます。その度にかさぶたに絡まった髪の毛が数本ずつ抜けていきます。生え際が剥げてしまいそうですが、気が付くとポリポリしています。

また耳のかさぶたもつい気になって剥がしてしまうため、せっかく乾いてかさぶたになったところからまた滲出液が出てきます。この悪循環が暫く続くことになります。

Day 17

久しぶりにふれあいセンターの温泉に入った後、コンシェルジュデスクに立ち寄り、かさぶたの取れ具合などを見てもらいました。滲出液が固まって動かし辛かった首もすっかり上下左右に動かせるようになっていました。

改善が感じられ気をよくしてふれあいセンター内の食堂でずっと食べてみたいと思っていた”ひとりジンギスカン鍋”をゆっくりと味わいました。

夕方、再びふれあいセンターの温泉にはいりましたが、ホテルの温泉よりもずっと濃く感じました。しかしその為か、夜には激しい痒みがあり、冷やしても、起きても、座ったままでも眠れず夜が明けてしまいました。

Day 18 豊富温泉は自噴する・・・

昼前にふれあいセンターの温泉に入り、帰りにコンシェルジュデスクに寄りました。前夜眠れなかったこと、久しぶりにセンターの温泉に入りお湯が濃く感じたことを伝えると意外なことが分かりました。

豊富温泉は時々自噴をしていて、自噴後はいつもよりも濃度の濃いお湯になるそうです。ここ何日は自噴しているためいつもよりも油分、タール分、塩分などの濃度が上がり、敏感になった肌には過度の刺激になったようでうす。そして同じように感じた方が他にもいたそうです。一方でホテル豊富の温泉は場所柄、湯治よりも観光客が多いため温泉のお湯は濾過され、濃度調節をしているそうです。

肌がとても敏感になっている今は過剰な刺激は避けた方が良さそうでしたので夜はホテルの温泉にさっと入る程度に留めました。

前の晩に眠れなかったこともあり、午後にはまたしても座ったまま寝落ちしてしまいました。

Day 19

東京に帰る予定でしたが、台風が東京を直撃。予定していたフライトは直前まで確定しないようです。ネットでフライトの変更と宿泊延長手続きができたのでもう1泊することにしました。

昨夜も全身が痛痒く、肌がチクチク、ピリピリして眠れませんでした。通い詰めているコンシェルジュデスクに行って肌の様子を診てもらいましたが、肌がカサカサ、シワシワになってくるのはノーマルなプロセスということでした。余談ですが、肌の回復には良質なタンパク質を多く摂取することが大切というアドバイスを口実に、せっかく帰京を延期したのでふれあいセンターの食堂で再び”ひとりジンギスカン鍋”を食べました。

湯治終了

予定の12日間を7日間延長して19日間の湯治になりました。

温泉に入りながらステロイドを止めよう、と簡単に考えていた自分の軽率さを思い知る19日間になりました。このような激しいリバウンドがあることも知らずに実行してしまったことが悔やまれます。

それでもこの厳しい状況を乗り越えられたのは豊富温泉のふれあいセンターの健康相談員の方々、コンシェルジュデスクのスタッフの皆さんのサポートがあったからです。皆さん皮膚のトラブル経験者であり、私の一喜一憂を温かく、また冷静に見極めてくださいました。

スタッフの皆さんの「大丈夫!良くなってきましたね!」が心の支えでした。また、見た目を気にする私に、「ここは豊富温泉ですよ。不要ならキャップは被らずになるべく乾かしてください。」とアドバイスしてくださったり、この顔では入りにくいと思っていた食堂も「良質なタンパク質を摂ると思って是非”一人ジンギスカン鍋”を食べてください!美味しいですよ~。」と明るく勧めてくださいました。

ずっと前向きに取り組めたのもこのような温かい環境を作ってくださった方々のお陰です。深く感謝しています。

東京に戻るにあたり、顔の湿疹と鱗状のかさぶたはほぼ落ちたものの、顔は粉を噴いたように一面白く、瞼もはれて、相変わらず耳には茶色いかさぶたが張り付いています。

飛行機に乗る時には、ニット帽深くかぶり、Lサイズのマスクをして目元以外は見えないようにしました。豊富温泉では顔や頭を含めて、全身を乾燥させるためにマスクは着用せず、ニット帽もなるべく被らないようにしていましたが、移動の際には周囲の眼も気になるので完全武装して帰路につきました。

稚内で入手したコットンのニット帽。緩めで被りやすい。
豊富温泉について

豊富温泉はこじんまりとした温泉街です。「ふれあいセンター」には温泉の他、前述したコンシェルジュデスク、健康相談室、休憩所、食堂があります。また、一部のホテルの売店でお弁当やお惣菜、定期的にパンが販売されています。

湯の杜ぽっけ」は豊富町が運営する公共の総合交流施設とありますが、カフェや売店、休憩スペースがあり、ここで観光の案内やレンタカー・レンタサイクルができます。

最初の宿泊施設にエアコンが無く暑さに悩まされていまが、日中は空調の効いたここでお茶やコーヒーを飲みながら読書などをして過ごしましたし、エアコンの有る部屋に移動後も窓が大きく明るいカフェでのお茶はとても良い気分転換になりました。

レンタカーは1台しかなく、レンタル料金も1日貸しの設定しかありませんが、ふれあいセンターがお休みの火曜日と月2回の木曜日、そして土曜日・日曜日以外は比較的予約が取れやすく、通院の際にはとても重宝しました。

《以下 “リバウンドとの闘い” へ続く》

変遷の記録

耳が浸出液で覆われ、剥がれていく様子 (Day 2 – Day18)
Day 2 – Day 19 手首内側にできた小さな湿疹が黒い点になり、表面が固まっては剥がれるを繰り返します
写真はDay 2 – Day 19 ですが、1か月以上経った今でも繰り返しこのようになります。

辛い日々にもこんなお楽しみがありました