中央分水嶺トレイル

歩き旅

「分水嶺」と聞いて何を思い浮かべますか?

日本の国土面積のおよそ75%は山地といわれています。そして日本列島の地図を見てみると列島の形に添って弓なりに山が連なっていて、標高を現す地図では弓なりに濃い茶色が伸びています。

改めて日本山岳会が提示している分水嶺の地図を見るとその連なりの美しさに惹かれます。

日本山岳会のHPより

その分水嶺のほんの一部ですが、38㎞におよぶ中央分水嶺トレイルがあると知り、どうしても歩いてみたいと思いました。

調べてみると・・・

信州・長和町観光協会から資料を購入できることが判りました。様々なパンフレットなどが入っていましたが、実際に使うのはトレイルガイドマップ及び1/25000の地図です。

このトレイルではテントを担いで1泊2日で歩くハイカーも多いようですが、テントが担げない私は2泊3日の宿泊で歩くことにしました。(宿については最後に記載しています)

信州・長和町観光協会HPより ※実際に使った地図は別の物です

行程

1日目 長門牧場 → 大門峠(9.8㎞)

2日目 大門峠 → 和田峠(12.4㎞)

3日目 和田峠 → 美ヶ原高原(美しの塔)(10.2㎞)

細かい指摘ですが、様々な所にこのトレイルの総距離が38㎞と記載されているものの、パンフレットのそれぞれの区間を合計しても38㎞にはなりません。算出方法は不明です。

長門牧場から大門峠

午前8時30分に長門牧場を出発しました。9時まで待てば長門牧場のソフトクリームを食べてから出発できます。(私は待てませんでした)

快晴です。暫くは牧場の中を歩きます。途中でフェンスの外(牧場に沿って外側)に抜ける道があったようですが、気づかずに牧場の中を歩いてしまいました。最奥にフェンスが開けられる所があり、そこから出ましたが、本来はもっと手前から牧場を抜けなければいけなかったようです。

牧場を抜けると森歩きが始まります。標識は要所にあり迷う事はありません。森の中の道も幅広く、整備されています。女神湖方面に向かう際に少し標高を上げます。

分岐を左に200mほど行くと女神湖に下りることができます。そのまま右に行けばトレイルの続きです。女神湖畔には公共のトイレやベンチがあるため、少し歩きますが休憩には良い場所です。

女神湖から先も気持ちの良い森歩きですが、用水路沿いを歩いたり、いくつかの小さな川を渡ったりします。本沢というポイントにある川は少し大きめ。渡ることもできますが、少し先の橋を渡りました。

ここまではずっと穏やかな道でしたが、最後に急登が待っています。YAMAPをみると本沢のあたりの標高は1350mでそこから距離で1㎞足らずの間に1504mの三角点まで上ります。等高線もギュっと詰まっています。ここまでなだらかな道を歩いてきたのでかなりきつく感じました。三角点で一休みしてから大門峠に下りました。こちらは緩やかな下りになっています。

1日目は距離を短く設定したため、女神湖でのんびり過ごし、実際は4時間、10kmほどのハイキングになりました。

スタートの長門牧場
暫くは牧場の中を歩きます
気持ちの良い森歩き
用水路
こんな沼地も越えていきます
渡渉もあり

大門峠から和田峠

前日に到着した白樺湖畔に隣接した大門峠標識地点から自動車道を渡ると2日目のスタート地点です。

コースが始まって直ぐに分岐があります。中央分水嶺の標識は右に行くように矢印が付いていますが、公式の地図ではここは直進です。ここでどちらに行くのか少し迷いました。地図で確認すると右に折れて森の中に入るコースはサブコースで姫木平分岐で本ルートと合流するようです。私は直進ルートで行きます。

直進の本ルートはいきなり急登が続きます。大門峠の1441mから一気に1641mまで上ります。思い出したように振り返るとその都度白樺湖が眼下にどんどん小さくなっていきます。

名も無いピーク近くに中央分水嶺の標識がありました。分岐を曲がらずに真っすぐ来たことを不安に思っていたので標識をみつけて少しホッとしました。振り返れば白樺湖は遥か下に、そして前方には車山越しに蓼科山、八ヶ岳がその雄大な姿を見せてくれました。

2日目はいきなりの登り
正面には蓼科山と眼下には白樺湖

車山スキー場のリフトの乗換中間駅までは急登と格闘しながら2時間を要しました。ここからは南の耳(1838m)、北の耳(1828m)、女男倉山(ゼブラ山)(1776m)を通って八島湿原(1640m)に行きます。

この区間は高い樹木もなく、周囲をぐるっと見渡すことができます。そしてその分、南の耳が見えているのに歩いても歩いてもなかなか近づかない感覚に陥ります。しかし、周囲の絶景や空、雲を見ながら歩くのは気持ちの良いものです。小さなアップダウンを繰り返しながら三つのピークを辿って八島湿原に下りてきました。

正面に南の耳
眼下には春遠い八島湿原

ガイドブックでは大門峠から八島湿原までが一つの区画になっていますが、この日はもう一つの区画である八島湿原から和田峠まで更に3.8㎞を歩きます。その間に鷲ヶ峰を越えます。

鷲ヶ峰も山頂は見えていますが、近づくと”ニセピーク”だったりと、時間的には1時間もかかりませんが、ここまで歩いてきた疲れもあり、とても長く感じました。

鷲ヶ峰山頂(1798.3m)にはがっしりとした標識が建っています。ベンチもあり、一休みできます。そして見晴は最高です!

鷲ヶ峰から和田峠までは下るだけですが、山頂直下の下りは急で足元の悪いザレた石の道です。注意してゆっくりと下っていきます。

鷲ヶ峰のピークが見えない…
やっとの思いで辿り着きました

最後は少し森の中を歩き自動車道路に出ます。この日のゴールは和田峠茶屋でした。

和田峠から美ヶ原高原(美しの塔)

前日到着した和田峠茶屋から100mほど道路を歩いていくと「中山道」の青い標識と黄色い矢印があります。今日は古峠までこの標識に沿って歩きます。古峠までは九十九折の自動車道路を何度かショートカットして登っていきます。

「中山道」古峠の大きな標識の地点に分岐があり、中央分水嶺トレイルは三峰山を目指して登って行きます。

少しだけ中山道
ここで分岐です

森を抜けると稜線に出ます。熊笹が生い茂る山の稜線歩きです。はるか先に見えるのはおそらく三峰山!と思いながら登って行きます。この日も晴天で南アルプスの山々、八ヶ岳などが見えました。

三峰山までは2時間かからずに登頂できました。途中は急登もなく、穏やかな稜線歩きといったところです。

三峰山からは反対斜面を扉峠まで下り、そこから最後の山、茶臼山に登り返します。この下りと登りが一番きつかったように思いました。

三峰山山頂から扉峠までは2.2㎞を下ります。途中森に入り、ヤマツツジなどを楽しみながらの山行です。扉峠には既に閉店している茶屋があります。お店も自販機もありませんが、きれいなトイレはありました。ハイカーとしてはとても助かります。

三峰山山頂から右側が茶臼山、左にゴールの美ヶ原高原

茶臼山(2006m)への登りは急登はほぼありませんが、岩尾根を通り、樹林帯の際の稜線を歩いて山頂に辿り着きます。遠くからみても、樹林帯と熊笹がきっぱりと分かれている部分があり、実際に登ってみるとその際を登るようになっていました。1時間半ほどで山頂に到着です。

正面が茶臼山
南アルプス

茶臼山は南が大きく開けています。アプリを使って見える山を検索してみると、乗鞍岳、蓼科山、八ヶ岳連峰、槍ヶ岳は確認できませんでしたが、穂高連峰と思われる山脈が見えました。

茶臼山山頂はこの日の最高地点であり展望もよく、ここでゴールのような錯覚になります。楽しみに取っておいた冷えたエナジーゼリーを一気に飲みます。

茶臼山からはゆるやかな道で美ヶ原高原まで約1時間歩きます。広大な美ヶ原牧場では2日前に今年の放牧が始まっていました。放牧された牛の数は少ないものの、のんびりと草を食む牛を眺めながらゴールの美しの塔までラストハイクです。

左側には小さく美しの塔が見えてきました
ゴールは美しの塔

今回のロングトレイルはお天気に恵まれたことが大きかったと思います。楽しいハイクとなりました。青空の下、心ゆくまでハイキングを楽しむことができました。

楽しかったロングトレイルですが、気軽に行かれるかというと、様々なハードルをクリアする必要があると思います。気づいた点をいくつか挙げてみたいと思います。

1.ハイクというよりも登山

分水嶺ですので当然のことではありますが、山の稜線を歩きます。なので、登っては下り、下っては登るの連続です。ハイキングというよりは山を縦走する、をイメージした方が良いと感じました。足場の悪い危険な所はほぼありませんが、ざれたところもありますし、ガレ場もあります。急登も急な下りもあることを念頭においた方が良いと思いました。

2.難関は公共交通機関

季節によってアクセスできる公共交通機関が限られています。スタート地点へのアクセスとゴールの美ヶ原から最寄りの公共交通機関へのアクセスは事前にしっかりと調べる必要があります。

スタート地点の長門牧場へはたてしなスマイル交通を利用できそうですが、便が限られていますし、月毎に運航予定表がでるのでそちらを確認する必要があります。尚、信州・長和町環境協会の中央分水嶺トレイルHP及び長門牧場のHPに、ハイカーの方の駐車場の使用はご遠慮ください、との文言がありますので自家用車を放置することはできません。

美ヶ原高原から松本駅への美ヶ原高原直行バスは6月6日から10月12日は土・日・祝日のみ1日2便就航。7月13日から8月31日までは毎日就航ですが、事前予約が必要とのことでした。(ご利用の際は事前に再確認をしてください)

王ヶ頭ホテルや山本小屋に宿泊した場合は送迎バスもあるようですが、宿泊費が高額であったり予約が取り難かったりします。実際に山本小屋を利用しようと試みましたが予約が取れませんでした。

今回は長和町大門にある「民宿みや」まで自家用車で向かい、3日間送迎をお願いしました。(有料で送迎サービスが受けられます)最終日の朝は宿の車と自家用車で美ヶ原高原の町営駐車場まで行き、そこから和田峠まで送っていただき、ゴール後は自分の車を使用しました。(「民宿みや」では中山道の街道歩きや中央分水嶺トレイルのハイカーのサポートをしてくださっています)

様々な制約があるのは承知していますので「便利にして!」とは言いませんが、折角の美しいトレイルですので、もう少しアクセスしやすい環境があると良いと思いました。

3.トレイル上での補給はほぼ無し

女神湖畔の女神湖センターはカフェや売店はホームページでは9時から営業と書いてありますが、私が行った平日の開店は11時でした。

テントを背負って山歩きをしている方々は慣れているかもしれませんが、食料や水の補給をするところはトレイル上にはほとんどありません。白樺湖畔にあるローソンが唯一の補給ポイントです。

閉店してしまっている和田峠茶屋の自販機は電源が切ってありました。そして扉峠の茶屋跡には駐車場とトイレ以外には何もありません。(扉峠のトイレは有難く使わせていただきました)

ゴールの美ヶ原高原の山本小屋ふるさと館はホームページには不定休と書いてあり、私が行った日は休館日になっていました。因みに、美ヶ原高原美術館と同じ場所に「道の駅美ヶ原高原」があり、2026年は4月25日から11月15日までは毎日営業とありますが、山本小屋ふるさと館からは徒歩で30分ほどの距離があります。

今回は毎回民宿に戻っていたので、飲料や行動食などを事前に持ち込んで貯めておくことができましたし、登山後に車でコンビニに行くこともできましたがテント泊を予定する場合は事前に十分な計画が必要だと思います。

4.ちょっと残念な踏破認定書

中央分水嶺トレイルについて調べ始めた時に、このトレイルを歩いた後、有料ではありますが、踏破認定書が頂けると知りました。事前に電話で問い合わせると、「要所要所のポイントで自撮りをした写真を添付して申請してください。」と説明がありました。そのため、要所毎に自撮りをしておいたのですが、いざ申請の際に再度尋ねると、「既にその方法はとっていないので、何月何日にどこからどこまで歩いた、というのを自主申告すれば良いです」と言われました。

すこし拍子抜けした気持ちになりました。性善説に基づいての認定書発行とは思いますが、少し価値が下がったような印象を受けました。

5.温泉!

今回は自家用車で民宿まで行ったのでトレイルハイクの後は宿に戻り、近くの温泉に通いました。(民宿にももちろんお風呂とシャワーはあります)

長門温泉やすらぎの湯、そして和田宿温泉ふれあいの湯です。長門温泉やすらぎの湯にはジェットバスが付いていて温泉に入りながら足をマッサージすることができます。 和田宿温泉ふれあいの湯には加温していない源泉の温泉があり、温度もかなり低めです。そこに入って足を冷やし、加温した温泉で温めるを数回繰り返すと膝やふくらはぎの炎症が抑えられ翌日がずっと楽になりました。

それぞれに特徴のある温泉はハイキング後の疲れた体に染みわたりました。(贅沢過ぎです)

最後に

どうしても歩いてみたかった「中央分水嶺トレイル」はアクセスなどのハードルはありましたが、その都度周囲に助けていただきながら踏破することができました。

森あり、稜線あり、雄大な景色あり、思わず深呼吸をしたくなるすばらしいトレイルです。もっと多くのハイカーに歩いてもらいたいと心から思えるコースでした。

ご興味ある方は是非「中央分水嶺トレイル」を検索してみてください。

今回の動画をInstagramに掲載しています。そちらもご覧いただければ幸いです。中央分水嶺Part1 ・ 中央分水嶺Part2