巡礼する日本修道女

Essay

巡礼する日本修道女

ベッドは下段にしてね!とアルベルゲの予約の際に念を押しておいた。その甲斐あって7人部屋のコーナーにある平置きのベッドが用意されていた。良かった~、と荷物をほどき始めた時に、隣のベッドの人が入ってきた。トニー、スペイン人の男性だ。「Hola!」と挨拶するとトニーも早速荷物をほどき始めた。片付いたところで、お互いに恒例の会話が始まった。「どこから来たの?どこまで行くの?一人旅?」等など。と
私は日本から一人で来ていて、フランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポーからサンティアゴまで歩く予定なの。と話した。

すると、トニーは「では君にいいものをあげよう。」とバックパックから小さな箱を取り出した。そしてその中からは巡礼のシンボルである、ホタテ貝のミニチュアが出てきた。

「これは、息子が3Dプリンターで作ってくれたんだ。それに僕が模様を入れた。ほら、こんな風にバックパックに付ければかっこいいでしょ!」と自分のバックパックを見せてくれた。つけ方にもコツがあるんだ!と事細かに教えてくれた。「大きなバックパックは配送しているから、どこに付けられるか考えてみるわ、ありがとう。いい記念になるわ」と有難く頂戴した。

「僕はスペイン人だから、休みの度に少しずつ歩けるんだ。」とトニーは言った。今回はパンプローナからレオンまで歩くという。それからはトニーとは毎日のようにどこかのカフェで顔を合わせる。陽気なトニーはいつも誰かに声をかけて一緒に歩いている。気が付くと、いつも一緒にいる人がいる。トニーから「彼はパーキンソン病だけど、一人で歩いているんだ。レオンまでは一緒に歩くつもりだよ。」と教えられた。トニーは彼のためにコーヒーを運んであげたり、バックパックのファスナーを閉めてあげたりと細やかに手助けしている。二人はついこの間巡礼路で知り合ったばかりだという。

巡礼の常で、どこかで一緒にはなるけど、会いたい時に会えるわけではない。トニーが私にくれた手作りのホタテ貝は記念すべき最初の1個目だったと知ったのはレオンの手前の町に着いてからだった。そんな特別な1個目と知って、改めてお礼も言いたかったし、できれば記念写真も撮りたかったし、一緒に歩いていたパーキンソン病の巡礼者がどうしているのかも気になった。そして、それとは別に“ちょっと言いたいこと”もあった。

私がもらったホタテ貝が記念すべき1個目という話しをしてくれたアルゼンチン人の巡礼者から意外な話しを聞いた。トニーは会う人ごとに例のホタテ貝を渡しながら、「僕の記念すべき1個目ははるばる日本から巡礼に来ている修道女にあげたんだ!」と自慢しているらしい。ん?修道女って私のこと?そんな話しをした覚えはないのに。確かに修道院があるカトリック系の学校に行っていたことがあるとは話したけど、修道女になったなどと話したことはなく、それにどう見ても私は修道女には見えない!はず…。トニーはかなり話しを盛っているようだ。

その話しをしてくれた人は私が既婚者だと知っているが、「彼の夢を壊さないために、黙って聞いておいたわ」と笑って話してくれた。

結局、トニーには会えずに私はレオンから先の町へと歩き出した。残念だ。その後も3人の巡礼者から「トモコ、いつの間にか修道女になってたよ。(笑)」とか「本当は修道女?」と聞かれた。一体トニーは何人の人に「トモコは日本の修道女」の話しをしたのだろう。本当の修道女には申し訳ない素行の悪い修道女だが、それでも皆が巡礼の旅の間に面白おかしく盛り上がってくれたのなら修道女も悪くない。

トニーからもらったホタテ貝のミニチュアは大切な思い出として本物のホタテ貝と一緒に私の宝箱の中にしまってある。