「マフィアがいるのよ!」この衝撃的な発言はピカソの絵画で有名なGernikaの宿でのことです。
私は相変わらず重いバックパックを背負って歩けない巡礼者です。しかし、それだけでサンティアゴ巡礼を諦めることもできず、バックパック配送システムに頼り、毎日4kgほどの小さなバックパックでトコトコと歩いています。
今回の「北の道」でも郵便局が提供しているるPAQ Mochilaという配送システムで出発地点のIrúnからSantiago de Compostelaまでを事前予約しました。
順調に出発して2日目。ZarautzからDebaの行程で、Debaの宿が満杯で取れませんでした。できるだけDebaに近く、海沿いの道で宿が取れるところを探し、片っ端から電話をかけ、やっと1件見つけることができましたが、巡礼路からはだいぶ離れた所になってしまいました。
このようなことが繰り返さないように、また連れがいたため毎日相談して宿を決めるのも億劫になったので、ここからはまとめて2つ3つ先まで予約することになりました。
その日のうちに、とりあえずGernikaとZamudioに宿を取りました。
宿の予約は私の名前で取り、ツイン一部屋を相方とシェアします。そして、二人ともPAQ Mochilaでバックパックを配送しました。
こうして無事に宿の予約も取れてGernikaに到着しましたが、ここで受付の人から厳重注意を受けました。
その理由は、私の名前でツインの部屋を予約した時に、連れのIsabelの名前が入っていませんでした。私のバックパックは予約者の名前と一致していましたが、連れのIsabelの名前はどこにもなく、Isabel名義のバックパックだけが届いているのです。
今回は宿のスタッフが予約者名簿とバックパックを突き合わせて、”ツインで予約されている部屋の人の連れのバックパックの可能性がある”と判断して受け取ってくれた、という事でした。
予約時にIsabelの名前を事前に連絡して欲しかったし、今後も同様の事が起こるかもしれない、と言われました。
「それは申し訳なかったけど、何故そんなに厳しいの?」と聞いてみました。
遡ること2年。この宿では午前中に巡礼者のバックパックが届きます。この日もいくつかの荷物が届き、デポジットに保管しようとしましたが、その内の一つが異常に重かったそうです。女性スタッフが持ち上げられないほど重かったそうです。引きずるようにして動かそうとしていたその時、玄関から男性が入ってきて、「そのバックパックは僕のです」と声をかけられたそうです。
「今日のご予約ですか?」と聞くと、「予約しようと思ったけどネットがうまく繋がらなかったのでとりあえずバックパックを送ったけど、今日は部屋は空いている?」と聞かれてスタッフがカウンターで調べている間に男性と荷物が忽然といなくなってしまいました。あたかも、荷物がホテルに着くのを待ち構えていたようなタイミングだったそうです。
不審に思ったスタッフは直ぐに警察に通報。人相やバックパックの件を報告し、警察が早速町中を捜索したところ、市庁舎近くでそれらしき男を発見。職務質問してバックパックを検査したところ大量の麻薬を持っていたそうです。その後の調べでロシアから流れてきた麻薬の配送に巡礼者のバックパック配送システムが使われていることが判明。一斉捜査の結果、あちらこちらで同じような事象があったことが分かったそうです。つまり、かなり組織化された大掛かりな麻薬配送システムが構築されていたと判断されたそうです。
以後、そのバックパックがちゃんと巡礼者の物かどうかを厳重にチェックし、不審なバックパックがあれば通報しなければならないことになっています。
「それは、申し訳なかった。これからは予約の際にちゃんと二人分の名前を登録しますね」と言ってその時は事なきを得ました。
このGernikaの次はLarrabetzuという町でしたが、そこでは宿が取れず、その3km先のZamudioにBooking.comで宿を予約していました。ところが、PAQ Mochilaの配送宿リストにZamudioがありません。宿に電話をすると、「この宿はPAQ Mochilaも他の配送も一切お断りしています。理由はセキュリティ上の問題があるからです。Booking.comのサイトにも書いてあります」
と、けんもほろろに電話を切られてしまいました。ウェブサイトを見ると、Q&Aの所に「配送を受け取ってくれますか?」「いいえ、受け取りません」とあります。これだけ!見落とす方が悪いのでしょうか?
郵便局のPAQ Mochila担当にも電話してみましたが、この宿は2年前に受取りを中止し、近くのバルも一時預かりを停止しているそうです。郵便局が開いていれば、そこに一時保管も可能ですが、この日は日曜日なので郵便局もお休み。この担当者も、「この辺りは”例のマフィア問題”があったからね…」と言っていました。
そしてその数日後、電話で予約したComillasの宿に着きました。予約の際に「宿泊者はTomokoとIsabelで二人ともバックパックを送ります」と口頭で伝えてありました。しかし、その内容は宿のスタッフでは共有されていませんでした。
受付すると、「Isabel、予約に名前が無いのにバックパックを送られるのは困るよ!」といきなり言われました。「電話で予約した時に、ちゃんとバックパックはTomokoとIsabel二人分送ります、って言いましたよ。」と言ったのですが、
「バックパックにちゃんと分かるように書いておいて欲しいな。変な荷物を受取ると厄介なことになるんだよ」
「例の”あの話し”?」
「そう、あれから宿の人間は皆とても注意してるんだよ」
Hospitalero(宿の管理者)は決してけんか腰ではなく、トラブルを避けるためにはこうした方が良い、という親切なアドバイスでした。
その日、私はIsabelのバックパックのラベル入れに赤字のメモを貼り付けました。
「このバックパックはTomokoのバックパックと一緒に配送されています。宿の予約はTomokoの名前でしてあります!」
以後、トラブルはありませんでした。納得がいかないのは、Booking.comで予約したZamudioの宿は自己都合のキャンセル扱いになり、100%支払いが徴収されたことです。
平和で穏やかに見えるサンティアゴ巡礼路ですが、こんな事もあります。
厄介事に巻き込まれないように。そして危うきに近づかず、ルールを守り心穏やかに歩きたいものです。





