It’s your mom!

Essay

私の中では“ミネソタ3人娘”と呼んでいた。

最初に出会ったのはキャロル。長い坂を下ってヘトヘトになってたどり着いたカフェのテラス席に座って、ニコニコとへばった私を見ていた。私は、「Hola」とだけ挨拶してカフェの中でカスタード入りのペストリーと紅茶を買った。外の方が気持ちが良さそうだと思ってテラスに出て、リュックを下ろし、大きなため息をついた。

「今日も結構きつかったわね」とキャロルから声をかけてきた。「どこから来たの?、日本?随分遠い所からきたのね。一人?どこから歩き始めたの?」と質問攻めにあう。

キャロルはアメリカ人。ミネソタ州から来ていて、あと2人と一緒に歩いているらしい。「でもあとの2人はどちらかと言うと私のトラベルエージェントなの。私の巡礼サポート隊、ってとこかな。」

しゃべるだけしゃべって、キャロルは「また会いましょうね。」と巡礼路へ戻っていった。

その2日後、お昼ご飯を食べそこなった私はペンションンのレストランで夕飯を食べるべく、午後7時の開店前から並んで待っていた。一番乗りして窓側の4人席に一人で座って、メニューも早々にオーダーした。どんどん人が入ってきて、レストランはあっという間にほぼ満席になっていた。巡礼者は皆早い時間にお夕飯が食べたいのだ。

「ハーイ!」と言われて顔を上げると、キャロルが立っていた。「ここの席に一緒に座ってもいい?」「私達3人なんだけど…、この2人が例の私のトラベルエージェントたちなの」。相変わらずちょっと押しが強い言い方。でも嫌味がない。「どうぞ~」と私。

連れのデボラが「悪いわよ。それにレストランの人に言わないと」と言っても、「本人がいま良いって言ったんだから良いに決まってるじゃない!」キッパリとキャロル。

私たちは4人で食卓を囲むことになった。キャロル以外のデボラとメアリは病気もあって、全行程を歩ける訳ではない。体調をみながら歩けるところだけを歩いてあとはタクシーで移動する。キャロルの荷物も持って行ってくれるらしい。次の宿も荷物の手配も全部2人にお任せ。キャロルはひたすら歩いては出会う人に片っ端から声をかける。なので、巡礼者の噂話とゴシップはふんだんに持っている。

「今入ってきたあの若い男の子、ちょっとハンサムだと思って手当たり次第女の子に声をかけてるのよ。ここ数日は〇〇と一緒に歩いてるみたい。まぁ、お似合いだけどね。」とか、「〇〇は写真を撮る時にいつもポーズとってるでしょ、昨日通った運河の橋の真ん中で写真を撮っていてスマホを運河に落としたんだって!最悪ね」とか。誰とかが足の骨を折ったとか。

「ところでトモコはどうして巡礼をしようと思ったの?」と聞かれて、「まぁ、人生のリセットかな。パンデミックの間に母が癌で亡くなってね」と軽く答えておいた。

食事の間中、3人がとばす冗談で散々笑って楽しい夕飯を頂くことができた。食後に皆で記念撮影をして、「私達ってやっぱりキレイに写るわね!」と最後まで冗談を飛ばして別れた。私は部屋に戻り、テレビを見ながら明日の準備をして早々に寝た。

怪奇現象はちょうど午前3時半に起こった。ぐっすり寝ていた私は、突然部屋の中が少し明るくなり、人の声がして目が覚めた。気が付くとテレビがついていた。クイズ番組だ。何が起こったのだろう。しばらく寝ぼけた頭で考えたが、特に恐怖を感じたわけではなかったので、「考えても仕方ないか」と再び寝た。翌朝起きてもよく状況が理解できていなかったが、気にしない!と心を奮い立たせて朝ごはんを食べに行った。

ちょうど食べ終えたころミネソタ3人娘の2人が入ってきた。

「トモコ、おはよう。良く眠れた?」とメアリ。

「寝たけど…、寝ていたら午前3時半に急にテレビがついたのよ。ひとりでに。怖くはなかったけど、ちょっとね。」

デボラ、「なんの番組だったの?」

私、「クイズ番組だったけど」

デボラはしばらく考えて、「トモコのお母さんは楽しい人だった?」

私、「そうね。楽しい人だったし、楽しいことも大好きだったわ」と答えた。

デボラはニッコリ笑って、「It’s your mom! Absolutely(お母さんよ、間違いないわ!)」と言った。

そういう考え方もあるのか、と思った。ちょっとホッとした、というか気持ちが落ち着いくと同時に何となく、「あぁ、そうか。母が心配して一緒に歩いてくれているのかな?」。と素直に思えた。

「お先に!」と私が立ち上がると、メアリがそっと私の腕に手を置いて「Have a nice day!」と見送ってくれた。

漫才トリオみたいなミネソタ3人娘だけど、「It’s your mom!」の一言で私の気持ちを立て直してくれた。

今日も元気に歩けそうだ。